書誌情報

著者:ユヴァル・ノア・ハラリ
訳者:柴田裕之
言語:日本語(原著:英語、原題は”Homo Deus: A Brief History of Tomorrow”)
発行年:2022年(上下巻いずれも)
出版社:河出書房新社
選書コメント
歴史学の原理原則は現在のところ2つあると思われる。一つは今後も未来永劫続くであろう普遍的原理、もう一つはあくまで現在のところは保持されている原理である。
普遍的原理というのは「万物は流転する」ことである。これは本書でハラリも指摘している。すべては時間の経過とともに移り変わり最終的には変質する、この変遷を肯定することである。
そしてもう一つの原理というのは「有史以来、今も昔も我々は同じ生物種(ホモ=サピエンス)として一貫している」ことである。現在の我々も過去の人間も、少なくとも歴史学で扱い得る対象としてはホモ=サピエンスしかないがゆえに、生物的にはほとんど同質である。つまり、根本の生物的特徴、例えば情動や欲望、死などというのは変化し難い。現在の我々が、経験し得ない過去の事例に関してもろもろの推論が可能なのはこの為である。この原理によって、我々は過去の歴史に自分の思考をアクセスすることが可能である。その基盤のうえで、考察の際に時代時代の思想潮流・社会環境という差異を如何に加味するのか、というのが歴史学の醍醐味の一つとなっていると言えよう。
そしてこれは「現在のところ保持されている」。すなわち、今後は破棄される可能性がある。その理由は、本書でハラリが解説しているように、近い将来我々の持つ生物的特徴はテクノロジーによって刷新される可能性があるからだ。我々がテクノロジーの力によって、従来の生物的束縛から逃れ、新たな種(ホモ=デウス)へ移行すれば、この原理は必然に前提を失う。歴史学に於いては重要な認識転換になる。本書では社会への影響について多くの論点が展開されているが、歴史学という学問体系にとっては、より根源的で強い力をもつのがこの問題である。


